2025.07.29
機械学習×流体力学が示すエンジニアリングの未来#1
現在、自動車の空力開発においては、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)によるシミュレーション解析や、風洞を用いた実験的な手法が主に用いられています。
これらの手法では、エンジニアが車体の形状を設計し、それに基づいた解析結果を分析。その結果を踏まえて形状を再設計し、再び解析を行う……というプロセスを繰り返すことで、最適な形状を導き出しています。
この手法は、多数のエンジニアによる“人海戦術”のような作業であり、より効率的な最適化プロセスが求められています。
近年、人工知能(AI)をはじめとするデータ駆動型手法の研究が急速に進展しています。流体力学の分野においてもその傾向は顕著であり、機械学習を用いた以下のような研究が広く行われています。
- 流れのモデル化
- 流れの予測
- 流れの制御
- 流れの超解像(Fig.1)
Fig. 1. 粗い格子の計算結果(左)から、細かい格子の計算結果(右)を推定する例(Fukami et al., 2023より引用)
近年では空力開発の現場においても、機械学習などを活用したデータ駆動型の手法が積極的に採用され始めています。たとえばモータースポーツの世界では、F1がAmazon Web Services(AWS)と連携し、2022年のレギュレーション策定に機械学習を取り入れた実績があります。
この事例では、以下の5つのパラメータ(Fig.2)から揚力係数(CL)を出力する代理モデル(サロゲートモデル)を構築し、目標値に合致するパラメータの組み合わせを推定するという流れで設計の最適化が行われました。
- Min-Z – Minimum ground clearance
- LE-Height – Leading edge height
- Mid-LE-Angle – Leading edge angle of the third element
- TE-Height – Trailing edge height
- TE-Angle – Trailing edge angle
このスキームにより、CFDを用いた試行回数を大幅に削減することが可能になります。
Fig. 2. フロントウィングに関する5つのパラメータ(Moreno (AWS), 2022より引用)
TotalSimでは、オープンソースのCFDソフトウェアを改良し、さまざまな分野で空力開発をサポートしてきました。また、シミュレーションや風洞実験と、実際の走行テストとの間に生じるズレをなくすため、次世代型風洞「Catesby Tunnel」の導入など、実用的な課題解決にも取り組んでいます。
そして今回、機械学習の有効性を検証するための取り組みとして、F1マシンのリアウィングを対象に、データ駆動型手法による形状最適化を試みました。