2026.03.16
皆さん、はじめまして。同志社大学フォーミュラプロジェクト(DUFP)で空力開発を担当している三田村です。 この度、弊チームは今シーズンよりTotalSim Japan様に技術スポンサードしていただくことになりました!クラウド型CFDプラットフォーム『Bramble』の運用をご支援いただきます。 本コラムでは、スポンサードに至った経緯を、弊チームの空力開発の舞台裏(という名の苦労話)を交えてご紹介するとともに、これからの開発展望についてお伝えできればと思います。
同志社大学フォーミュラプロジェクト(DUFP)の紹介
私たちDUFPは、学生フォーミュラ日本大会に参戦するため、同志社大学京田辺キャンパスの「機械研究会」を中心として活動している学生団体です。 2012年から2014年にかけて総合3位を獲得、2023年には総合8位、そして2025年にはチーム最高順位となる総合2位(ICVクラス)を獲得するなど、現在は表彰台の頂点を目指して精力的に活動しています。ものづくりだけでなく、部品調達やスポンサー様との渉外・広報活動も学生が主体となって行います。技術部内はエンジン、サスペンション、フレーム、エアロなどの班に分かれ、ドライバーもメンバー自らが担当して一台のマシンを作り上げています。
fig1.2025年度大会 チーム写真
DUFPの空力開発は2017年から始まり、2018年度大会から空力デバイスを実装し始めました。
fig2.2018年度マシン
当時の大先輩PLが綴った裏話も興味があればご覧ください。(こちらから)
私は2021年にチームに加入し、翌年の2022年度マシンのカウル・ボディパーツの設計製作からスタートしました。右も左もわからない中でCADを何とかこねくり回し完成させたボディパーツは今でも思い出深いです。今振り返るととんでもない重さのカウルで、当時の自分に会えたらグーパンチしたくなりますが、CADの基本のモデリング概念、FRP成形の基礎などを身につけることができ、今の自分の知識や技術の基盤を築くきっかけとなったと思います。
fig3.2022年度マシン
そこから色々な人の助けを借りてV字開発プロセスや機械工学の知識を身につけて2023年から前後空力デバイスの設計、2024年からは冷却関連まで設計する機会をもらい、空力パッケージ全体を設計するようになりました。2025年度はベストエアロ賞2位も獲得でき、ようやく空力開発のベースが構築できたのかなと思います。
空力開発は「時間」と「現実」との戦い
弊チームでは例年、大会が終わった直後の10月から12月までのわずか3か月間で次年度のマシンの設計を行います。この期間すべてを設計に充てられれば理想的ですが、学生フォーミュラ戦士にでもならない限りそうはいきません。かくいう私も普通の大学院生ですので、授業や研究、アルバイトもあり、実際に設計に割ける時間は限られています。空力領域では、主にダウンフォース(DF)によって定常旋回性能を向上させることを目標に設定することが多いです。しかし、目標達成のための幾何形状設計が始まると、私たちの前にはいつも物理法則よりも厳しい「現実」という壁が立ちはだかっていました。
fig4.DUFPにおける車両開発フロー
過去の課題:「苦行」のメッシュ生成とリモートデスクトップ接続
これまでの私たちの空力開発を一言で表すならば、「苦行」です。
数年前になけなしのお金で買ったワークステーション。最新のCPUと64GBのメモリを積んだ当時としては優秀なPC。それが空力開発の頼みの綱でした。しかしそんなPCも影分身することは出来なく、1台しかありません。1ケース解析を回せば指をくわえて待つしかありません。PCは大学に置いていたのですが、さすがに四六時中大学にいるとおかしくなるので自宅からリモートデスクトップ接続で解析も回すこともしばしばありました。しかし不安定なWi-Fiや大学の予期せぬ停電が追い打ちをかけます。マウスカーソルが遅延する状況でモデル処理や境界設定するのには、外科手術並みの忍耐と集中力が必要でした。
さらに、CFDの最大の強敵は「プリプロセス(前処理)」です。複雑な3Dモデルを読み込んではエラーを吐かれ、修正してはまたエラー。やっとの思いでメッシュ作成にこぎつけ、「明日の朝には結果が出ているはず……」と祈るように眠りについても、翌朝ログインした画面に映っているのは「Calculation Complete」ではなく無情な「Error」の文字。 こうしたトラブルが頻発すると、試したい形状もお蔵入りになり、いつまで経っても目標を満たす形状を完成させられないというジレンマを抱えていました。
クラウド型CFD『Bramble』との出会い
そんな絶望の淵にいた私たちに救いの手を差し伸べてくださったのが、TotalSim Japan様です。 クラウド型CFDプラットフォーム『Bramble』の最大の魅力は、なんといっても「場所とリソースを選ばない」こと。もう大学のワークステーションのご機嫌に左右されることはありません。突然大学が停電しても、カフェでも、自宅のコタツでも、ブラウザさえあればそこが最先端の解析センターになります。 後輩たちがもうあの「苦行」を経験しなくて済むという安心感、そして効率的なCFD環境でどのような開発ができるのか、想像するだけでワクワクしています。
今年度の目標と今後の展望:空力を「セットアップ」の道具へ
今年度は弊チームとしてもチャレンジの年になります。約10年かけて再び表彰台に戻り、今年度はその頂を目指します。そして今年度空力領域としては「旋回時にちゃんと仕事をするエアロ」を目標に開発を行ってきました。学生フォーミュラのコースはタイトなコーナーの連続です。直線でどれだけダウンフォース(DF)が出ていても、ハンドルを切った瞬間にDFが抜けては意味がありません。「旋回時にちゃんと仕事をするエアロ」を今年度はより深く探求したいと考えています。
その探求のために、私たちは実測評価にも力を入れています。圧力計測や荷重計測を行い、実際の走行中の流れ場がどうなっているのかを検証しています。風洞設備を持たない多くのチームにとって、CFDは唯一の評価ツールです。だからこそ、実測データとのコリレーション(相関)を突き詰め、CFDの精度を高める取り組みは、チームのみならず学生フォーミュラ全体にとっても価値があることだと考えています。
fig5. 2025年試走会 圧力計測の様子
本格的な『Bramble』を用いた空力開発は2026年シーズンからとなりますが、今年度はまず早期に環境整備を行い、このクラウドパワーを最大限に引き出す準備を進めます。 最終的なゴールは、TotalSim Japan様の強みであるエアロマップ作成ツールを活用し、空力デバイスを単なる「数値目標」ではなく、コースに合わせてマシンを速くするための「セットアップツール」へと昇華させることです。私は今年でM2になるので2026年度大会で引退となります。Brambleを活用した空力開発は後輩にバトンタッチし、今後の開発環境構築を全力でサポートしていきたいと考えています。
fig6.DF26車両(with モザイク)
最後に、少し個人的な想いを述べさせていただきます。
実際のところ、学生フォーミュラの空力デバイスに対して、懐疑的な意見をお持ちの方も一定数いらっしゃるかと思います。「あの低速域で本当にダウンフォースが出ているのか?」「重くなるだけで、実は遅くなっているんじゃないか?」と。
私は、空力開発者こそ、自らの設計を過信せず、常に誰よりも懐疑的な目で実現象に向き合う必要があると考えています。
確かに学生フォーミュラは、他のカテゴリーに比べて平均車速が低く、コストや労力に対するタイムへの寄与度は低い領域かもしれません。手っ取り早くタイムを上げるなら、新品タイヤを履かせ、腕の良いドライバーを連れてくるのが正解でしょう。しかし、もし効率だけを求めて困難な領域を切り捨ててしまったら、私たちエンジニアの存在価値はどこにあるのでしょうか。そこから技術の進歩は生まれるでしょうか。
自動車という乗り物のあらゆる領域を、限界まで追求し、進化させる。そして、昨日まで不可能だったことを、理論と技術で可能にする。これこそがエンジニアにしかできない挑戦であり、使命だと私は信じています。
私にとって学生フォーミュラは、単なる速さを競う「モータースポーツ」である以上に、未知の課題に対して原因を突き止め、新たな解決策を模索し続ける「エンジニアリングの修練場」です。 そのプロセスで得られる本質を掴もうとする姿勢。これは将来どのようなキャリアを歩んでも必要となる、普遍的な能力であるはずです。どうか今後とも学生フォーミュラの空力開発を温かい目で見守っていただけたら幸いです。
TotalSim Japan様と共に歩むDUFPの進化にご期待ください!










